19世紀後半にイギリスで花開いたアーツ・アンド・クラフツ運動は、工業化の波に対する芸術的な反発として始まりました。
この運動は庭園デザインにも影響を与え、「アーツ・アンド・クラフツガーデン」は自然との調和を重んじるその精神を体現しています。
今回は、この独特なガーデンスタイルの背景と特色を学びます。
アーツアンドクラフツの要素とは
松江イングリッシュガーデンの庭園デザインには、アーツ・アンド・クラフツ運動の時代の概念が取り入れられています。
Contents
庭を家の延長として見る
園内は、大きく6つのエリアに分かれています。それぞれのテーマに分けられたエリアを「部屋」と呼び、このエリアを区切るスタイルは「シリーズ・オブ・ルーム(Series of Room)」と呼ばれるのだそうです。
日本語では、「部屋の集まり」というイメージで捉えることができると思います。
「庭を家の延長としてみる」という考え方は、アーツ・アンド・クラフツ運動の時代の概念からきています。
これらの「部屋」は、緑の大きな生垣で仕切ったり、樹木で区切ったりと様々な方法でエリアを区切ってそれぞれの空間を表現しているのです。
緑の大きな生垣は部屋を仕切る塀
2mを超える大きな緑の塀に囲まれたエリア。
例えば、ここは整形式庭園の部屋。大きなトピアリーがシンボルのように配置されて魅力的なアクセントになっています。
部屋を繋ぐ曲がりくねった散策路
それぞれの部屋への「繋ぎ」は、先が見えないように意図的に曲がりくねったデザインになっているのも松江イングリッシュガーデンの特徴です。
来園者にとっては、次はどんな景色が待っているのかとワクワクするようなデザインです!
どこまで続くのかというくらいくねくねと続きます。
庭のスイレンの池でさえも、植栽で曲線を作って先を見せないところに奥行きとデザインの統一性を感じます。
テーマごとにデザインされた部屋
今回は松江イングリッシュガーデンの3つの「部屋」をピックアップしてご紹介します。
ホワイトガーデン
ホワイトガーデンは白い花やシルバーリーフをつける植物を集めた庭で、イギリスのシシングハースト城(Sissinghurst Castle)の庭園を元にデザインされたのだそうです。
イギリスケント州にあるナショナルトラスト所有のガーデン。ホワイトガーデンが有名で世界中のガーデナーや観光客が訪れることで知られています。
私が訪れた6月は、シロバナシモツケやカシワバアジサイが咲き誇っていました。
バラのテラス
バラのテラスでは、ピンクのバラと壺を持ったエンジェルのオーナメントが、やさしいロマンチックな雰囲気を醸し出していました。
小径にはバラによく合う紫のメドーセージやキャットミントが咲いていました。
パーゴラの中庭
松江イングリッシュガーデンのパーゴラは煉瓦を積み上げた柱に木製の板で天井部分を作ったイギリスの伝統的なスタイルです。
「パーゴラ(Pergola)」とは、イタリア語でぶどうや藤などつる性の植物を巻きつける棚のことを言うんだよ。
4〜5月には藤の花が一面に咲き誇り、藤の他にはつるバラやスイカズラが巻き付けられていて、それぞれの季節を彩ります。
訪問時は6月でしたので藤の花は終わったばかりで残念でしたが煉瓦の柱にはピンクのつるバラが可愛らしく咲いていました。
手作りの自然の素材を取り入れる
自然の素材を取り入れるのもアーツアンドクラフツの大切な要素です。
バーリントンストーンのスレートポット
園内の至るところに大小のさまざまな形をしたスレートポットが配置されています。大きいスレートポットは成人男性の高さを超えるほどの大きなサイズもありました。
「スレート(Slate)」とは平たい石という意味だよ。
イギリスの湖水地方で採れるという『バーリントン・ストーン(※1)』を使用したスレートを積み上げてポットの形状にしたものです。
(※1)「バーリントンストーン」とは、イギリスの最高級の石で知られています。歴史的建築物など、古くはローマ時代から使われてきたそうです。
地元の自然環境と調和する
「地元の自然環境と調和する」というポイントもアーツアンドクラフツの思想では、大切な要素の一つです。
ボーダーガーデンに囲まれた「憩いの広場」からは宍道湖を眺めながら休憩する空間になっています。
湖畔からの心地よい風と対岸には松江市を臨む環境になっています。
ガーデンの基本情報
※2019年4月に松江市から民間に売却され、現在(2023年8月時点)は結婚式場としてリニューアルされています。
イングリッシュガーデンのみの一般公開はされておらず、式場と併設するレストランは利用可能ですが、最新情報を確認されるのをお勧めします。
追記:2022年11月にレストラン利用で訪れた際は、結婚式用の撮影が行われていたため、残念ながらガーデン見学はできませんでした。
施設名 :松江イングリッシュガーデン(2019年閉園)
公式URL:該当なし
住所 :島根県松江市西浜佐陀町330-1