スイセンは、春の訪れを告げる花として西洋の多くの文化に愛されています。この花は、春の始まりを伝えるだけでなく、文化的な深みと歴史的な背景も持ち合わせています。
スイセンから学ぶ西洋文化
今回は、ギリシャ神話、キリスト教文化、イギリス文学の3つの視点からスイセンとの関わりを紹介したいと思います。
スイセンの象徴性
スイセンは、その美しい姿とともに、豊かな象徴性を持っています。
ギリシャ神話においては、「無邪気さ」と「自己愛(ナルシシズム)」という意味を持っています。一方、キリスト教文化や文学の世界では、寒い冬を乗り越えて咲き誇るその姿から「希望」、「復活」、「再生」の象徴とされています。
これらの意味合いは、スイセンが西洋文化の中でどのように捉えられ、価値づけられてきたかを知ることができます。
ギリシャ神話とスイセン
学名のNarcissus(ナルキッソス)は、ギリシャ神話の美少年ナルキッソスに由来します。
ナルキッソスの物語は「自己愛」と未来の「希望」を象徴するものです。
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美少年ナルキッソスは、皆の憧れの的でしたが、誰にも心を動かされることはなく、泉に映った自分自身に恋をします。それが叶わぬものとも知らずにナルキッソスはその泉のそばで息絶えます。そして彼が亡くなった場所に白いスイセンの花が咲いたのだそうです。
出典:The New York Public Library
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この物語は、「美しさと儚さ」、そして「内省の重要性」の象徴でもあります。
うつむき加減に咲く姿はナルキッソスが泉に映り込む自分の姿に見惚れていた様子に喩えられています。
キリスト教文化:イースター(復活祭)とラッパズイセン
キリスト教文化では、春の最大イベントのイースター(復活祭)と深い結びつきがあります。
聖母マリアの象徴でもある百合の花に似ていることから「Lent lily(レントリリー)」とも呼ばれ人々に親しまれています。
Lentとは、キリスト教の「四旬節」のことで、イースター(復活祭)までの40日間。復活祭に向けて懺悔や断食を行う期間のことを言うんだよ。
スイセンはイースター(復活祭)の教会の祭壇の飾り付けやテーブルデコレーションに使われます。
またグリーティングカードやイースターエッグなどのモチーフとしても描かれています。
イギリス文学:シェイクスピアの花「ラッパズイセン」
イギリスの劇作家シェイクスピアの作品「冬物語」にもラッパズイセンが登場します。彼はこの花を通じて、春の到来と美しさを讃えています。
Daffodils, That come before the swallow dares, and Take the wind of March with beauty;
William Shakespeare, The Winter’s Tale
出典:Public Domain
ツバメもまだ姿をみせぬうちに咲きだして
その美しさで三月の風をとりこにするアスフォデル
引用:シェイクスピアの花園 シェイクスピア劇より/ウォルター・クレイン:画 マール社 2006.11.20
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花の繊細な美しさと背後にある深い物語に心を傾けることで、自然の真の価値をより深く感じることができます。
スイセンを語った文学は他にもありますが、また次の機会に紹介したいと思います。
公園を散歩すると、色々な花たちが季節の移り変わりを静かに教えてくれます。中でも、冬の寒さを乗り越えて春を告げるスイセンは、その美しさと力強さで私たちの心を和ませます。今回は、この魅力的なスイセンにフォーカスし、その様々な種類と特徴を紹介します。...
参考
「神話と伝説にみる花のシンボル事典」 杉原梨江子 講談社 2021.7.15
「花の神話伝説事典」 C.M.スキナー[著] 垂水雄二・福屋正修[訳] 八坂書房 2016.3.25